式神。
その言葉を聞いて、
巨大な獣が現れる。
炎を吐く。
敵を倒す。
そんな姿を思い浮かべる人もいるでしょう。
けれど前回までお話ししてきたように、私にとって式神とは、
強いものを呼んで戦わせればいい
というものではありません。
もっと小さなものもいる。
もっと地味な仕事もある。
今回は、その中でも「動くもの」の話をしましょう。
管狐と、鳥。
強さではなく、役割がある
式神について考えるとき、私はまず、
「それはどれほど強いのか」
ではなく、
「何をさせるのか」
を考えます。
伝える。
探す。
見る。
ある場所へ行く。
そして戻る。
人間が自分ですべてをする必要はありません。
だから、使役されるものにも役割があります。
十二天将や四神のような大きな存在ばかりを思い浮かべていると、ここを忘れてしまいます。
管狐
管狐――くだぎつね。
名前くらいは聞いたことがあるでしょうか。
狐と呼ばれていますが、普通の野山の狐をそのまま想像するものではありません。
日本各地、とくに中部地方などには、小さな狐のような存在を使役するという管狐の伝承があります。
一方で、管狐は「憑きもの」の伝承とも深く結びついています。
特定の家がそれを使役する、あるいはその家に憑いて繁殖するといった、
少々怖い話も残されています。
ですから、
「管狐=安倍晴明が使った式神」
と単純につなげることはしません。
伝承には伝承の系統があります。
私が教わってきた中では、管狐のような存在には、ただ呼び出すのではなく、
訓練し、役割を持たせるという考え方がありました。
何でもできる万能の使い魔ではない。
何をさせるのかが先にあるのです。
鳥は、何をするのか
では、鳥はどうでしょう。
飛べます。
人間が歩いて行くより速く、遠くまで行ける。
上空から地上を見ることもできる。
昔から人間は、実際の鳥にもさまざまな役割を持たせてきました。
伝書鳩なら、情報を運ぶ。
では、式神として鳥を考えた場合は?
私が教わったのは、
鳥は、陰陽師の「眼」になる。
ということでした。
自分がそこへ行かなくてもいい。
鳥が飛ぶ。
鳥が見る。
そして術者は、そこから情報を得る。
だから、鳥に必要なのは敵を倒す力ではありません。
見ること。
それが仕事です。
「眼を飛ばす」という発想
これを現代風に考えれば、
「ドローンみたいなもの?」
と言いたくなるかもしれません。
似ている部分はあります。
けれど、少し違います。
機械のカメラから映像を見るというより、
自分の眼を、自分の身体から離れた場所へ置く。
私が教わった感覚に近い言葉を選ぶなら、こちらでしょう。
鳥そのものが主役ではない。
鳥を介して、術者が見る。
だからこそ、
何を見るのか。
どこまで行かせるのか。
いつ戻すのか。
が大切になる。
ここでも結局、前回の形代と同じところへ戻ってきます。
行かせたなら、戻す
前回、形代について、
「怖いのは、きちんと戻さないこと」
と書きました。
使役するものについても、私は同じように考えています。
出した。
働かせた。
情報を得た。
はい、おしまい。
ではない。
行かせたものなら、戻す。
結んだものなら、解く。
役目を与えたなら、終わらせる。
始まりだけではなく、終わりまで扱う。
それができないものに、むやみに手を出すものではありません。
では、強大な式神ならもっと便利なのか
ここで最初の話へ戻りましょう。
玄武を使えたら強そう。
朱雀を使えたらもっとすごそう。
麒麟なら?
十二天将なら?
さて。
何のために?
鳥一羽の役割で足りることに、強大なものを必要とするでしょうか。
紙一枚で済むことに、大きな力を使う必要があるでしょうか。
力が大きいほど、扱う側にもそれだけのものが必要になる。
だから、
強いものを使える人が、一番優れた術者である
とは私は考えません。
必要なものを。
必要なだけ。
そして、必ず終わらせる。
式神は、術者の力を見せびらかすものではない
ここまで、
十二天将。
四神。
麒麟。
形代。
管狐。
鳥。
いろいろな名前を出してきました。
でも私が伝えたいのは、珍しい名前の一覧ではありません。
式神について考えるときに見ているのは、
力の大きさではなく、術者がその力とどう付き合うのか。
ということです。
これは祈願祈祷について書いたときと、何も変わりません。
鈴は、音で払う。
剣は、邪を切る。
そして、
常に平静であれ。
強いものを前にしても。
小さな紙一枚を前にしても。
自分の眼となるものを遠くへ送り出すときも。
扱う人間が平静でなければならない。
私は、そう教わってきました。
次回――夢に出てきた人は、あなたを想っているのか
さて。
十二天将、形代、管狐。
少々、遠くまで来ました。
電話占いへ帰りましょう。
「先生、彼が夢に出てきたんです」
はい。
「私はそうではありませんが、彼は私のことが好きなんだと思います」
……はい?
夢に人が出てきたこと。
あなたがそう感じたこと。
そして、
実際に二人の間に流れている縁。
これは、全部同じものでしょうか。
次回は久しぶりに、恋のお話です。

