否定することを恐れるな――私が唯一、お客様にキレた話

Moiraの記憶

占い師は、お客様に寄り添う仕事です。

では、寄り添うとは何でしょう。

話を聞くこと。
気持ちを受け止めること。
苦しかったことに共感すること。

それらは、とても大切です。

でも、

「お客様の言うことを、すべて肯定すること」ではありません。

私は弟子たちに、

「否定することを恐れるな」

と伝えています。

そう考えるようになった理由の一つに、昔のある鑑定があります。

長くこの仕事をしていますが、後にも先にも、私がお客様に本気で腹を立てた、
たった一度の鑑定です。

むかし、ある女性からご相談を受けたことがあります。

ご主人は、家ではほとんど口を利いてくれない。

東京の大学へ進学した娘さんが久しぶりに帰ってきても、自分とはあまり話をしてくれない。

ところが、ご主人と娘さんは楽しそうに話をしている。

「酷いと思いませんか?」

お客様はそうおっしゃいました。

私はまず、お話を聞きました。

娘さんが幼い頃から教育には力を入れてきたこと。

ずっと私立へ通わせたこと。

そして東京の大学へ進学させたこと。

そこまで育てるために、自分はどれほど努力してきたのか。

そのお気持ちは分かります。

子育てには、お金も時間もかかります。

自分のことを後回しにした日だって、きっと何度もあったでしょう。

だからこそ、

「こんなにしてきたのに」

と思ってしまう気持ちも、分からないわけではありません。

けれど、お話を聞いているうちに、私はどうしても引っかかるものを感じました。

娘さんは、その恩を返すために生きているのでしょうか。

私立へ通わせたことも。

大学へ行かせたことも。

娘さんが望んだことであれ、親御さんが選んだことであれ、それによって娘さんの人生そのものが親のものになるわけではありません。

そして、とうとう私は言いました。

「お子さんには、お子さんの人生があります。
あなたには、あなたの人生があります。
お子さんなしに生きられないということはないはずですよ!」

……キレました。

長く鑑定をしてきましたが、お客様に対してあれほど強い口調になったのは、
後にも先にも、あのときくらいだったと思います。

寄り添うことと、何でも肯定することは違う

占い師は、お客様のお話を聞く仕事です。

辛かったこと。

悲しかったこと。

腹が立ったこと。

人にはなかなか言えなかったこと。

それを話していただく場所でもあります。

でも私は、

お客様の言うことを何でも「そうですね、あなたが正しいですね」と肯定することが、
寄り添うことだとは思っていません。

ときには、聞きたくないことをお伝えしなければならないこともあります。

あのとき私が見ていたのは、娘さんの気持ちではありませんでした。

「娘は母親をどう思っていますか」

と占って、それらしい答えを返すこともできたでしょう。

でも、その前に伝えなければならないことがあると思ったのです。

子どもは、親の人生を満たすために生きているわけではない。

そして親にも、子どもとは別の人生があります。

子どもが巣立ったあと、

「私はこれから、どう生きよう」

と考えることだってできる。

むしろ、そこから始まる人生もあるでしょう。

今なら「毒親」という言葉で語られることもあるのかもしれません。

でも当時の私は、そんな言葉で分類していたわけではありません。

ただ、

それは違う。

そう思った。

だから、あの日だけは占い師の顔より先に、一人の人間として怒ってしまったのでした。

お客様そのものを否定する必要はありません。

「あなたは間違っています」と人格を裁く必要もありません。

けれど、

その考え方には同意できません。

その行動を私は勧めません。

そう伝えなければならないときがあります。

そこで嫌われることを恐れて、お客様が望む言葉だけを返してしまったら。

それは誰のための鑑定なのでしょう。

優しい言葉を選ぶことと、耳ざわりのよい言葉だけを選ぶことは違います。

だから私は、弟子たちに言います。

否定することを恐れるな。

ただし、人を否定するな。

否定する必要があるのは、その人自身ではなく、
その人を苦しめ、あるいは誰かを傷つけようとしている考え方や行動なのです。

Moira

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